野村 暢彦

※インタビュアー:N & I & G

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N:本日はインタビュー、宜しくお願い致します。

野村:お願いします。

 

―研究室について (研究分野・内容など)-

N:野村先生の研究室では、どのような研究を行っている研究室なのでしょうか?

野村:自分らの研究室は、微生物の研究をしています。環境科学専攻なので、環境に携わる微生物を研究しています。また、他専攻もまたがっている研究内容なので医学、薬学、森林学など、微生物に関わる全てのことについて研究しています。

 

N:幅広い研究内容ですね。質問ですが、微生物というと、どのような種の微生物を取り扱って研究しているのでしょうか?

野村:環境汚染を分解するものから、我々の体の中にいる常在菌までを扱っています。分かりやすい例を挙げると、世界中でモデル菌として扱われている微生物、自然環境下に存在する環境常在菌など日和見菌、大腸菌や乳酸菌など微生物を扱っています。

 

I:幅広い微生物を扱っているのですね!

野村:そうですね。微生物は単細胞っていうイメージはありますが、地球上に存在する微生物の70%以上は、集団で生活するものが多いです。それは、河川、海洋、土壌中でもです。バクテリアは、単独で生きているイメージがありますが、一匹一匹がばらばらに暮らしているのではなく、ほとんどが集団で生きているんです。このことは最近研究で分かってきました。もちろん、一匹になるときもあります。私たちは、微生物がどういう時に集団になるのか、勿論単体になるときもなるので、そのメカニズムについてと、その環境適応について、遺伝子レベルから生態学的にも研究しています。微生物は単独でも生きられるものもいるし、生きられるのだけれでも、群れで生きるものがいます。同種ではなく、異種でも集団になり、住んでいることがわかりまして、それが地球の様々な物質循環に、間違いなく深くかかわっています。そのことを研究し明らかにしようとしています。

 

I:微生物の世界の中にも多様性があるんですね!

野村:そうですね!(笑)

 

―研究について(研究テーマ、内容について)―

G:今、先生は、どのよう研究を主になされているのでしょうか?

野村:微生物の集団とその中でのコミュニケーションをすることが分かったので、それについて研究しています。当たり前のことですが、微生物は声でコミュニケーションをしません。言葉に代わるような「物質」を細胞の外に出してコミュニケーションをしています。そのときの物質・言葉そのものを、同種だけでなく異種の微生物同士が受けることで、どのような機能、反応をしているのかについて研究をしています。微生物同士が、集団の中で同種異種を超えて、会話をして、環境適用などのすごいことをしていることがわかりました。これは、今現在一番新しい微生物学です。

 

N:微生物同士が会話をする物質というのは、何か化学的な物質なのでしょうか?

野村:そうですね。身近なものから、ペプチド性のものアミノ酸に似たような極小のものなど、様々あります。
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I:へぇー!様々な物質があるんですね。

野村:これらの物質のことを理解することによって、地球上の物質循環、特に微生物が主に関わっている窒素循環の真相を明らかにできます。また、応用をすれば、石油分解菌などによるバイオレメディエーション(環境浄化)分野などでも活かせることができます。具体的な例として、石油を含んだ汚染土壌の石油分解菌による環境浄化があります。石油分解菌による環境浄化をラボで実験してみると上手くいきます。しかし、現場で上手くいかないことがあります。それはなぜかというと、現場の汚染土壌に理由があるのです。先ほどから説明しているように、微生物の多くは集団で生活をしています。謂わば、暮らしている微生物が一種の村社会みたいものを作っているのです。その村には元々住んでいる微生物がいて、その中に、人間の手により導入された菌、ここでいえば石油分解菌を導入しても、菌がその村の中で定着できなかったり、定着してもその機能を発揮できないことがあります。その菌は、機能的にも、実験的にも、石油分解菌が石油を含んだ汚染土壌を分解してくれると思うけれども…、現場ではうまくいかないことが多々あります。有用な菌を上手くコントロールするためにも、集団と微生物間コミュニケーションというものを理解することが重要です。今までの微生物のコントロール方法(pH、溶存酸素量、栄養素など)とは全く違う視点の、「微生物間の会話をコントロール」をすることは全く新しい革新的な成果と考えています。」

 

N & I & G:おーー!!(驚き・感動)

野村:実際、水環境、水の処理の分野で、微生物により環境浄化が行われています。従来の方法では、様々な化学薬品などを利用するためよりコストがかかりますが、微生物とかれらのコミュニケーションを利用するのは、化学薬品などは必要がないのでコストダウンができます。けれども、微生物とその機能に関する効率をもっと上げないと、現実的な普及に至りません。このほかにも、化学的な方法よりも、より効率的に、潜在的な微生物のもつ浄化力を引き出すことができるメリットもあります。このように、研究室では、微生物の機能を明らかにする基礎的な研究だけでなく、環境浄化などの応用的な研究も行っています。

 

G:微生物がコミュニケーションを行うんですね!驚きました!」

野村:ラボだけで実験をすると、環境条件が整っているため成功しやすい。でも、現場ではうまくいかない場合が多い。現場でどうなっているのかを、見て、経験したからこそ分かったこともあります。ラボでの研究とフィールドでの経験のふたつが大事ですね!

 

―研究を始めたきっかけと面白さについて(先生の大学生時代は…)―

N:先生にとっての研究を始めたきっかけと面白さとは何ですか?

野村:きっかけは、微生物と遺伝子というキーワードです。ラボで微生物に関する基礎的な研究を行っていました。先ほどから説明しているように、微生物間のコミュニケーションに必要な遺伝子が何かとか、物質が何かという基礎的な部分。そのほかにも、現場(フィールド)に出て、菌を現場でうまく使っていけるか、を仕事としてやってきました。そうしたら、ラボと違う結果になったんです。それは何故?と疑問に思うと同時に、研究を面白いと感じるようになりました。調べていくと、肥沃な現場の土壌の中には、その土壌1cm3当たりに大体一億匹の微生物がいます。もう村というより、一つの世界ですね(笑)。
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G:たった1cm3当たりに大体一億匹の微生物…、それが何haもあるとなると、地球上の小宇宙ですね!

野村:そうですね。人間にとって不快そうな土壌であっても、そこには様々な微生物が生息をしてます。土壌中の石油を分解したいという人間の思いにより、石油分解菌を導入したら、分解が上手くいくと思うけれど、微生物たちには彼らの世界があって、コミュニティーを作っていて、人間の思う都合通りにならないです。その彼らの集団と、その中でのコミュニティーやコミュニケーションについて研究し、それで得たデータから、どうすればいいのかということが幾つか出てきます。研究を面白いと感じたのは、それがわかり始めてきたことがでてきたからです。また、研究のきっかけは、微生物の機能など、それらに関する色々な発見はラボでできるかもしれないけど、もっと大きな発見はもしかしたら現場にあるかも!というのがきっかけです。

 

N:大学生のときから、今の研究をなさっていたんですか?

野村:いえ、全然違います。大学で学んでいたことは、物理化学でした。微生物の「微」の字もなかったですし、実は、研究そのものに興味はなかったです(笑)。大学生のときに入った研究室は、微生物と遺伝子を研究していました。入った当初は全く興味を湧かなかったですね(笑)。でも、まぁ、入ったからにはしっかりやる!と決めました。半年間ぐらい、論文読めと言われて、ノイローゼのような感じにもなりました。修士も更々行く気無かったですが…、いえ、そもそも修士など院や研究のことをまったく知らない学生だったんです。四年生の時に、就職活動や就職そのものをしない「いい方法」があるんだ!と思って院に進みました(笑)。

 

N & I & G:あはは(笑)

野村:半ば宙ぶらりんとしてましたが、大学院に行っている間に、研究の仕事をもらうようになりました。また、やり続けてきた結果、研究をすることが楽しいと感じてきました。そして、主任・教授から、「ドクターに行ったら?」と言われ、いつの間にか…。初めは、目的も興味も何もなかったですが、今に至ってます(笑)。

 

N & I & G:あははー(笑)そうなんですね!その時の研究室のおかげで今の先生があるんですね!

野村:そうですね。教授の懐が深かったですね。けど、興味なろうが無かろうが、行ったところでとりあえず全力で研究で取り組みました。専門書を持ってきてては何度も読みました。けど、最初は全く読めないのでノイローゼになりましたね。けど、一年経ったら読めるようになりました。その後、博士課程に在学し、先生から研究に関して様々なアドバイスをもらいました。その時、ただなんとなくやりたいこと・興味ないことを言うのではなく、Aを研究したい理由にはBというデータがあるから、またCという方法を用いることでDという結果が予想される、将来的には学会など論文を投稿できるだろうという、論理的な言い方をしました。その時の研究ビジョンは先生考えたものとは違いましたが、その時の教授は私の考えた研究をやらせてくれました。うまく研究がいくかと思いましたが、自分の考えた仮設と自然の反応が違って、博士課程の一年間、ノーデータの時がありました。先生の指導を受けながら研究をやっている同期らは、国際的な学会に参加したり、きれいなデータが取れたりしていましたが、私は私自身で発案から考えて進めた研究であって、全く新しいことをテーマとしていたので、データが出てこない・論文が出せないということがありました。でも、そこに苦しさはなかったですね。自分は、世界でまだ判明していない新しいことを追及しているのだという気持ちを持ち続けていたので、ドクターを取れなくてもよいから、自分の気になることをひたすら研究していました。

 

N:とっても強い意志をもって研究を行っていらっしゃったのですね!でも、先生が大学生のときに「研究に興味がなかった」ということに一番驚きました。

野村:休みたかったですからねー。できる限り研究室にいる時間を少なくしようとしていました。そのために、無駄を省くように研究を行いました。

 

―研究室について―

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G:今現在の研究室の雰囲気についてお聞きしたいのですが、学生は何人いるのでしょうか?

野村:B4~M2は各学年4~5人ずつぐらいです。Dは年度によって違いますが、今年度は4人です。来る学生には自力型研究室だから、厳しいということを伝えています。

 

I:コアタイムなどは設定しているのでしょうか?

野村:研究室としてコアタイムは設定していませんが、学生自ら9:00~18:00をコアタイムとしているようです。

 

G:ゼミは何曜日に、また何日ぐらい行っているのですか?

野村:私を含めたゼミだけでなく、学生自らが進めるゼミも週1で行っています。割と厳しめな研究室ですね。毎週金曜にゼミがありますが、その時学生全員がパワポで進捗状況報告しあっています。学生自ら行っているゼミというのは、進捗状況報告の準備であったり、輪読会であったり、色々やっているみたいです。
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G:研究室に来る学生はどんな人が多いですか?内部生と外部生の割合などは?

野村:研究室に来る学生は、厳しいと分かった上で入ってくる人がほとんどです。学生のほとんどは内部生(筑波大学からの学生)で外部からの学生は少ないです。外部生にも来てほしいですけどね…。

 

G:内部から進学する学生がほとんどなのですね。学会発表や論文はどうしているのでしょうか?

野村:学会発表はほぼM1全員、国際学会で発表しています。一部の学類生も国際学会で発表しています。その説明するということ、話し方についての指導も行っています。

 

N:具体的にはどういうことですか?

野村:野村研の中でも「私の研究です」ということを風に説明できるようにしています。学生自身が何を面白いと感じたのか、どう展開させて、だからこうやっているんだ、ということを自分の言葉で伝えられることを練習しています。言わば、相手に伝わりやすい、相手が納得する、分かりやすい発表の仕方を練習しています。この力は、学会での発表だけでなく、就職活動でも活かされますしね。

 

―卒業した学生の進路など―

G:卒業した学生の方々は、どのような進路に行かれていますか?

野村:様々な分野の職種についています。学類生や修士生は、公務員や民間企業など様々。博士号取得者は、研究機関に進んでいます。一般企業について詳しく言うと、営業や商品開発など様々な分野・職種で働いています。医薬や化粧品などの商品開発から、環境関係、NHK子供向けのサイエンス番組、商社とか…(笑)、研究室で行った専門に偏らずに仕事としている学生が増えていますね。先ほども言いましたが、研究室では物事を自分の言葉でわかりやすく伝えることを重視しています。就職で大切なことは、ロジックを持ってしっかりと説明できる人で、企業はそういう人を欲しがっています。全く分野が違う企業であったとしても、そういう能力を持つ人が就職しています。

 

―学生へのメッセージ―

G:質問も最後に差し掛かってきましたが、今後研究室見学に来る学生などに対してメッセージをお願いします。

野村:そうですね。本を出しているような偉人な方よりも、学生の時に自分の出したデータが糧になります。世の中理不尽なことが多く、壁に当たった時にどうやって乗り越えるか。研究室での研究生活や経験が、今後の幸せになるための将来の投資だと思ってくれればと思います。また、先輩とか先生とかの言ったことに聞く耳を持つこと、聞いたうえでやるかやらないかと判断しましょう。研究って、8割9割が上手くいかないことが多いです。実験が上手くいっても、自分らの設定した仮設と異なるが多くあります。無駄になるそれをどういう風に乗り越えるか、打たれ強い人になって下さい。最近、うまく結果が出ないと凹んでしまう学生が多いですが、その研究の理不尽感を感じてください(笑)。自然の行っていることなので、仕方ないと思えるように、そこに寛容になるように、更に改善をできるように。そういう人が民間企業でも残っています。それぞれの生き方だと思いますが、自分が思ったこと、先輩先生が思ったこと、仮説にしろ、研究室で学べることを学び、かつ自分の言葉で伝えられるようになってください。

 

N & I & G:最後に一言お願いします。

野村:聞く耳を持ち、打たれ強い、素直な人間に。