山路 恵子

※インタビュアー:M & Y

山路恵子1山路:よろしくお願いします。

 

―研究内容について

Y:まず始めに、先生の研究内容から伺ってもよろしいでしょうか。

山路:はい。私たちは、植物がストレス環境で生きているときに、植物の能力だけでストレス環境に対して耐性を示すような作用をする、ということは勿論あるのですがそれだけじゃなくて、根の周りにいたり、植物の茎の部分に存在している微生物が刺激を与えて、植物がさらに強くなると言うような、そういったことがあるのではないかと思って研究しています。

 

Y:茎の部分にいるんですか、菌が?

山路:(元々は)根をやってたんですけど、茎の部分にも内生している菌がいまして、それをつけると、地上部と地下部にも効果がありそうな実験結果も出始めています。

 

Y:では今は研究で茎の部分を……

山路:そうですね、(根と茎の)両方やってます。根の菌では効果がない事例があったときに、丁度根の地際(根と茎の境目)にいる菌で調べてみると、その菌に効果がありました。茎の部分にも面白いのがいるねと、話しています。

 

Y:そうなんですか。では、その研究を始めたきっかけというのが、さっき仰っていた茎の菌に効果があったからというのが一番ということでしょうか。

山路:はい。実は、森林総合研究所東北支所でPDのときに、2002年から2004年まで仕事をしていたのですが、その時の仕事で、胚軸の菌を樹木実生につけてやると、地上部と地下部の防御成分の量が増えるというデータを出していまして、それがまあ、きっかけですね。

 

Y:そうなのですか(驚き)。

山路:はい。こちらにきて根の菌をやりたいという学生さんと、根をやりつつ胚軸も、と両方やって、色んなデータが出始めています。

 

Y:研究室の人数はどのくらいですか。

山路:人数は、今は8人ですね。

 

Y:8人のうちの何人くらいが根で、何人くらいが茎を対象としているのですか。

山路:1人が茎で、あとは根ですね。根を中心にやっています。

 

Y:根の研究と茎の研究で一番おもしろいポイントというのはどこでしょうか。

山路:そうですね、実際に例えば重金属土壌を使って、そこに菌がある状態とない状態の植物を移植してやると、菌がある状態の植物がよりすくすく育つ。菌がないと苦しそうに育つ。クロロシスといって葉が白くなる現象があって、生きてはいるけど苦しんでいる、そういう状況になります。そのような結果を見ると、なんだかわくわくしますね。「植物は植物だけで生きてなくて、微生物にも頼っているのだなあ」という感じがします。
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Y:その試験は、完全に滅菌して無菌状態で生育させているのでしょうか。

山路:そうですね、本当は環境的な応用を考えると、例えば半無菌とか、ある程度の無菌状態でやりつつ、開放系でやることが必要だと思うのですけど、最初の段階ではやはり、植物と微生物の相互作用を知らないといけないので、植物体に関しては種子滅菌して、培地の上で発芽させて、滅菌した状態のものを選んで使っています。あと土壌のほうは、色々試したのですけどガンマ線滅菌をして、その土壌を使っています。自然界とはリンクしないところもありますが、まずそこの一対一の関係を見ようとしています。

 

M:植物には特有な菌がそれぞれいるのでしょうか。

山路:はい、そうですね。ストレス環境に自生する植物の根を表面殺菌して、根から出てきた菌を分離しているのですが、その植物に特有の菌がやはりでますね。

 

Y:先生のされてる研究の応用的なこととしては、どういうことを考えていますか。

山路:うちのやっていることは基礎研究だと思うのですが、応用面で考えられるのは緑化かなと。例えば、重金属が多い地帯とかに、何か植物を植えたいとする。その時に微生物と一緒に植物を育てておいて山に移植するとか、そういう風に緑化の効率を上げることができるかなと。最近は何でも緑化を色んな樹木選んで適当に緑化するのではなくて、そこの緑化したい地点の周辺の里山を見て、そこの樹種にあったものを植えようという動きもある。ですので、微生物と一緒に、そういう周辺の里山の植物種を植えてあげられたら良いのではと思います。

 

M:凄く基本的な質問になってしまうのですが、環境ストレスというのは主に、重金属イオンによるものなんでしょうか。

山路:現在、重金属を環境ストレスとして主に取り上げています。以前は色々なストレス環境を見てきたのですが、植物や微生物の反応が強いという印象があるのは重金属であることを痛感してまして、そちらのほうに(メカニズム的な方に)いけたらいいな、と思っています。

 

M:茎から、微生物はどのように作用するのですか。根なら分かりやすいのですけど。

山路:私、ヒバという樹木の実生を調べていたのですが、胚軸(茎)の部分が赤く反応していました。そこで、病気の研究をやっている人にお見せしたら、これは病気っぽいねっていうんですね。で、おやっと思ってそこの赤い部分から菌を分離すると、ある糸状菌がとれたのですが、それが内生菌的に働くものだったのですね。どうも実生のうちは病原菌として働かないが、成木になると胴枯れ病を引き起こすタイプの菌だったのですね。胚軸の菌が植物の体内に感染し刺激を植物に与えると、植物側は防御物質の産生度を増やすような効果がある。つまり、結果としてその菌がいることで、ワクチンのような効果がでる、虫や病気に対するストレス耐性を高めることになるんじゃないかって、それがポスドクの研究だったのですけど。

 

三村:面白いですね。

山路:あ、ほんとですか。ありがとうございます。

 

Y:茎って、凄いですね。

山路:はい。

 

M:ワクチン的な効果があり得るのですね。

山路:はい、内生菌の場合それが知られていますね。だけど通常の栄養がちゃんとあって、植物がすくすくと生きてるような環境では、逆に成長を抑制する場合もあるので、なんていうんですかね、きまぐれな奴なんですよね。
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Y:(笑)。いつも役立つとは限らないという。

山路:ええ、そこがちょっと魅力的というか。ただ、状況に応じて、植物との相互関係を変えるというのが応用的利用を考えると、難しいと思うのですね。そういうタイプの菌って実はすごく多いので、調べることで何か役に立つ知見が得られるのではないかと思っています。

はい。

Y:重金属って、基本的に元素としてはどのようなものを指すんでしょうか。

山路:比重4〜5の元素をさします。実際の重金属環境にいきますと、単独的に影響しているのではなくて、複合的に多数の元素が影響しています。銅、鉛、他の場所だとニッケルとかそれぞれ場所によって多い元素が異なりますね。その土壌環境で生きている植物が、通常の植物の含有濃度よりも高く重金属を吸収するという場合もあります。ということは、そういった植物種には何らかの解毒機構がある、と私たちは考えています。

 

Y:となりますと、植物が重金属を吸収した場合の微生物の働きは・・

山路:菌がいると、植物側の重金属の吸収が抑制されていた、というケースがありました。また、菌がいても植物は重金属を吸収しているのですが、植物は菌がいない時と比べて良好に生きているというケースもありました。

 

Y:そうなんですか。過剰吸収は良くありませんよね。

山路:そうですね。過剰吸収は良くないのですけど、微生物の中には、その重金属と錯体構造を作るような物質を出して、解毒に関わるようなことをしていたものもありますし、糸状菌の場合だと、菌糸に重金属をためて、植物体内には移動しないようにする、というような防御系も知られています。そこは各関係によるみたいですね。

 

Y:面白いですね。

山路:本当は地上部に重金属を蓄積する植物がいればいいんですが、自生している植物の中では中々地上部に移行させるというよりも、根で留めて地上部のストレスを抑制しているケースが多いですね。対象とする土壌環境から重金属を取り除くのは、もとの土壌をとり除いて客土する、他の土を置くのが一番手っ取り早いですね。

 

M:そうですよね、確かに。

山路:例えば裸地になっているところは凄い土ぼこりで、周囲に飛びますよね。土壌の飛散がないように植物を生育させ、土壌の系外への拡散を抑制する、というのが良いのではないかと最近思いますね。

 

M:そうですか。

山路:はい。やはり緑化という考え方が私たちがやっている部分では一番適当かなと思います。意識はしているけども、まだそこまではたどりついていません。

 

Y:先生の研究を一言で表すと、どうですか。

山路:ええ、そんな質問……(笑)。ええ、一言で、え、そうですね、「自然から教わる」かな。

 

Y:おおー(感動)、自然から教わる。

山路:はい、自然に教わっちゃうと一番楽かなと。皆さんがやっている分野もまさにそうだと思います。自然から教わった知恵を生かした、何か応用に繋がるような、基礎的知見を得ることがいいのかなと思っているところです。

 

―研究室について

M:研究室の様子を少し、教えてもらってもいですか。

山路:ええ。どういう……

 

Y:雰囲気とか。

山路:雰囲気ですか。

 

M:週に何回セミナーがある、とか。

山路:ゼミは週に2回あって、ある期間は論文ゼミ、ある期間は研究ゼミ、というような状況でやってますね。

 

Y:噂によると……。

山路:噂!

 

Y:週に一度お茶会をやるって聞いたのですが。

山路:ああ(笑)。最近、無いですね。

 

Y:ええ!

山路:最近、(研究室を)引っ越してから、やらなくなりましたね。お茶会があると研究室になじんでない学類3年生や4年生が先輩とも色々話せたりして良いのでは、と思って以前はやっていました。引越しで慌ただしくてしてなかったですね。

 

Y:研究室はここ(A306)で、実験室はどちらにあるんですか。

山路:実験室はA301で、共通機器室A303で、クリーンベンチ作業などをしています。

 

M:基本的に皆さん、野外でサンプリングをし、実験室で研究して、という形なんですか。

山路:そうですね。採取したサンプルは根を洗って、地上部と地下部に分けて、それを乾燥して分析する、あるいは生のままメタノールで抽出して分析する、あとは、根から菌の分離をする、とかそういう用途で使っています。

 

Y:コアタイムはいつですか。

山路:コアタイムは一応10時から17時としています。皆大人ですから、色々用事もあると思うので必須という形ではありません。でも、昼夜逆転するのはやめようね、というか(笑)。サンプリングの後は逆転しがちなんですけども、処理が多すぎて(笑)。絶対駄目とかそういうのは、ないです。
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M:学生の指導にあたってのポリシーはありますか。

山路:できるだけ一緒にやるってことはしてます。一緒っていうのはフィールドいって観察するときは、一緒にいたいなと。それは指導のポリシーというよりは、ただ自分でやりたいというか (笑)。

 

M:興味(笑)。

山路:そうですね、面白いところに一緒に行って私も観察したいというのがまずポジティブな点であります。もう一つ、おやりになってると分かると思うのですけども、研究ってなんでも、楽しいだけじゃなくて結構しんどいことも多いじゃないですか。何でこんなうまくいかないのってことありますよね。そういうので私自身、修士の頃結構きつかったです。でも、誰かと話したり一緒に観察することで解決できることも多いじゃないですか。だからできるだけ一緒の時間を作ろうかなって。そういう気持ちはあります。中々できないですけど(笑)。

 

―学生に向けて

Y:研究室にくる学生に、どういう学生に来て欲しいとか、そういう要望というか、こういう人に是非来てほしいというのはありますか。

山路:野外に出るのが好きで、分析も好きだとうれしいなと思います。嫌いと言うところから入ってしまうと辛いじゃないですか。だから、まず好きだな、面白そうだな、という気持ちがあってくれればいいと思います。

 

M:この研究室にくれば、こんなことできるぞ!ということはありますか。アピールポイントというか。

山路:色々な環境に行き、そこに生きている植物を見ることができることかなと思います。あとは、うちの研究室は穏やかな子が集まる傾向はありますよね。あとは、ちょっと変わったような趣味を持っているような子も集まる・・・・・・。特に去年いた子たちには面白い人が多かったですけど。だから、穏やかに、アットホームな感じで過ごせると思うのですが。そのくらいかな。

 

M:先生の人柄がにじみ出てるという。

山路:いやいや(笑)。人柄。そんなことないです。みんなに助けてもらってるので、本当に。

 

M:研究室の学生は皆ドクターに行かれるんですか。それとも修士までで修了するのですか。

山路:様々ですね。ドクターまでいこうかなって子もいますし、修士で卒業する子もいます。勿論、修士課程終了後、就職する方がずっと多いです。

 

Y:就職先を伺っても大丈夫ですか。

山路:ええ。そうですね。去年の例でいうと、化学薬品系、薬学系、コンサル系にひとり、公務員に一人です。

 

M:良い所に行っているような感じですね。

山路:みなさん頑張って、良い所行かれますよね。

 

Y:最後に何か言いたいことがあれば。

山路:何それ(笑)。言いたいこと。

 

Y:学生さんに。

山路:ああ、学生さんに向けて一言みたいな。それは前どっかで考えたので、言えると思う(笑)。多分自分のやりたいことに、繋がる仕事をしていきたいて皆思っているじゃないですか。毎日働くわけだから、少しでも自分の好きなことに近いことができたらいいですよね。勿論おばあちゃんとかになってもできると思うんだけど、やっぱり学生の間がその準備が一番できますよね、色々な本も読めるし、時間も忙しいけどあると思うのですよ。だから、自分がやりたいことにできるだけ近い進路を、決めて欲しいなあと凄く、思います。

 

Y:本日はありがとうございました。